EXCAS
 ――そうして、現在。

 中身が入ったコップが飛んできた。
 避ける事もせず、それを真正面から受けた。

 割れた破片と中身の水が身体に弾く。暗い部屋の中で、詩絵瑠の瞳が怪しく光る。
 怒りと、殺意が入り混じった紅く燃える瞳だ。
 その視線は俺を射抜いて放さず、身近にある物を次々と投げ始めた。
 コップを載せていた盆に、抱えていた枕、支給された装飾品や、果てには二人が映った写真立てまで。

「こんなものでいいのか。こんなもので満足か?」
「うるさい、うるさい、うるさい! 黙れ、黙れ、黙れ!」

 机の引き出しをぶちまけ、空になったそれを投げる。
 間違いなく胴を捉え、防ぐ事はしなかった。治りきっていない火傷に角が当たったせいで、苦痛の針が突き刺さる。
 絶えなく続いていた彼女の攻撃が止んだ。荒い呼吸は獣のそれに近い。
 何があったかと見れば、果物ナイフが闇の中で黒く冴える。
 引き出しの中にあったのだろう、投げた弾みでなければ落ちていない。
 拾ったそれを、なおも乱れていく呼吸で、視線は逸らせず見つめていた。
< 260 / 493 >

この作品をシェア

pagetop