EXCAS
 次第に、怖くなったのか怒りか、ガタガタと震え始めた。
 獣じみた呼吸は規則正しい。だが今は激しく乱れ、呼吸困難に陥り瀕死同然。
 二つの感情が反発し合い、心より身体の方が持たなくなったのだろう。
 放っておけば倒れるか、最悪心まで壊れて狂うか。
 それは、俺の望む結果を生まない。

「――どうした、詩絵瑠?
 その手にしたナイフで果物でも刻みたいのか?」
「っ…………!」
「情けない。人一人傷つける度胸もないのか。そんな結果でいいのか?」
「ぁぁぁああああああああああ!」

 咆哮。
 殺意、憎悪、憤怒、それらが心を覆い尽くしたのか。
 暗闇の中、高々とナイフが振り上げられる。
 躊躇いのない刃が弧を描く。
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