EXCAS
 空虚な思いが飛来する。
 冷たい流れが染みてくる。
 温かさが失われていく。
 胸に突き刺さったナイフを見て、体内に侵入した鋼を感じて、湧き出る血液を他人事に眺めた。
 ああ、刺されたんだな、と今さらのように思った。

「……どうした、それで終わりか。満足できたのか」
「黙れって、言っているんだ……!!!」

 突き刺さったナイフが引き抜かれて、振り落とされ刺さる。
 胸から腕へ、肩へ、出血も多くなり勢いも増し、思わず倒れこんだ。
 だが、それでも詩絵瑠は止めない。
 馬乗りになったまま、何度も何度も。
 何度も何度も。
 何度も何度も何度も何度も。
 何度も何度も何度も何度も何度も何度も。
 四肢から血液と共に力が抜けて、身体は痛みと温かさを失っていく。
 泣きながら血塗れのナイフを振り上げ、鬼気迫る表情は、もう昔見た彼女とは思えないほどに歪み、俺を憎んでいる。
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