EXCAS
 それはどんな不思議か、声が鳴る。
 耳を塞ぐ者、目を逸らす者、等しく頭の中でそれは鳴る。除夜の鐘の如く重々しく、暗く、その名に不相応な声。

『――その戦い、感服に値する。
 賞賛に値する。だが、愚か極まりない』

 嘆くように言う。人の温かみがある言葉だった。形だけであるが。
 誰が、それに答えられただろうか。否、誰もが何もいえない。馬の耳に念仏、という言葉とは違う。確かな人間の言葉であるに関わらず、彼らの理解を越える物であった。答える者はない、それでも言葉は続く。まるで、ここにいない誰かに届けるように。
 ここにいない、誰かを呪うように。
 ここにいない、誰かを慈しむように。
 言葉は続く、聖書を朗読しているように。
 月を越え、星を越え、この戦いに関わったすべての者に聞こえた。
 暗闇から轟くように、夕闇の波音のように、唐突な摩訶不思議は心臓もろとも凍りつかせた。
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