EXCAS
 返事はない。死んでしまっているのだと、そんな嫌な思考が駆け巡る。
 同時に逃げ出せと、この場は危険だと戦場を生き延びたパイロットの勘が訴える。それを、煩いと怒鳴りつけ黙らせた。
 誰かを失いたくない。
 見知った誰かに死んでほしくない。
 例え戦場であろう、甘いと愚かと言われようとも。
 すぐ先にある未来を前に、親しい命を散らせたくはなかった。
 何とかできないものかとへばりついた。ヘルメットをしていないあの状態で、無理矢理ここを叩き割る事は出来ない。どこか入れる場所を視索する。
 なんとか艦長席の脇に見つけた。配置的に外に繋がっているだろう、その扉。そこへ向かおうとして、

「……待ちなさい、亮太君」

 蚊の泣くような小さな声で、メディアは言った。
 パチパチとなる火の音から聞き分けるのは困難でも、確かにそれは届いたのだ。

「大尉、しっかりしてください! 今、助けます。そこの扉から入るので、すぐに息を止めて」

「無駄な事は、お止しなさい。はやく、この場から離れるのです」

「…………何を。そんな、また見捨てろって、俺に言うのか、アンタまで!」

「そう。君しか、生き残らなかったの、ね」

「みんな死んでしまった、みんな死に向かってしまった、助けられなかった! それなのに、可能性があるのに、貴方まで」

「気に病まないで。気にするのは、私。君のように、心優しい子をこんな場所に連れてきてしまった。大勢、死ぬとわかっていた、この戦場に」

「そんな事はいい! 余計な、今は言わなくていい事だ! だから、お願い……貴方を、助けさせて」

 もう、誰かに死なれたくないんだ。
 稲妻のように鋭く、
 羽音のように小さく、
 枯れない涙と共に彼はそう言った。
 辛すぎる、悲しすぎる懇願は、しかし。
 穏やかに首を振った彼女の前に、無力だった。
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