EXCAS
『本日、1150時目標発見。同日1400時、目標ロストしました』
『探索から消失した理由として、破片に混じって逃走したのだと。その仮定に従えば、近辺のステーションに潜伏していると考えられます』
「早く見つけ出してほしいものだ。あれは、放置していては危険極まりない」
『目下全力で捜索中であります』
「期待しています」
 プツリ、と映像付の通信が終えた。光もない闇の部屋で椅子に身を委ねた。
 天井を仰ぎ見るとスクリーンが起動している。天井に広がる数字、数式、図形、あらゆるデータが凄まじいスピードで流れていく。解読できないそれを、椅子に座っている人物は嬉々として見ていた。
 ワイングラスを片手に、どす黒く赤い液体が注がれる。
 狂気に酔い、憎悪に歪み、嘲笑を含み、憤怒に燃える。液体を飲み干し、飲み零して滴るアルコール。それは血液に見え、顔に貼り付けた老人が飲血鬼に見えた。
「やっと遭えたぞ。ヒムロの娘」
 グラスが割れた。破片が掌に刺さり、本物の血が流れる。
 痛覚がないのか、傷ついたと自覚していないのか。老人は流れるスクリーンを見ていた。そのすべてを理解しているのは、この世で一人だけ。無論、この老人ではない。
 画面が変わり、この宙域を現す。過去数時間前に存在していたはずのステーションが消え失せていた。破壊ではなく消滅。破片の一つもなく、そこに在ったという痕跡はデータ上にしか存在しない。
 仮にその事を知らない人物がいるとしたら、一体なんと嘆くだろうか。
 仮にその生き残りがいたとしたら、一体なんと悲しむだろうか。
 仮にその関係者がいたとしたら、一体なんと、
「素晴らしい」
 なんと、感激するだろう。
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