マー君2(原作)
だけど、美代は−−。

美代は気を取り直すと、無理に明るく振る舞い笑顔を見せる。

「もう、一樹は。私にお説教しないでよ。べぇーっ」

呆れている一樹にアッカンベーをした後、手を振って自分の家の方へと走っていく。

いつもの別れ道の十字路を美代は右に、一樹は左に行く。

いつもここで一樹と別れる。

だけど−−。

「じゃあねー! 一樹」

「わかったわかった、早く帰れ」

一樹がそそくさに美代に背を向け、片手を上げ応じる。

それでも美代は作り笑いをして、バイバイーとしつこく言う。

一樹の姿が見えなくなるまで。

だって、美代も偽りの仮面をつけているから。

わかっていても、外す勇気がなかった。

一樹に嫌われる気がして。

美代の素顔を見て。

こんなにも弱く脆い自分を見て、嫌いになるかもしれない。

怖かった。

失うのが。

一樹を−−。

美代は一樹の姿が見えなくなると、足を止め、手を下ろした。

眩しい夕日が美代を照らす。

美代は自分の後ろにできた陰を見下ろし、ぽつりと呟いた。

「何やってるんだろう、私」
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