マー君2(原作)
「でも、なんでこんなに苦しんだろう。一樹と一緒にいることが」

好きなのに、好きで堪らないのに、一樹が遠くに感じる。

この胸につまった思いを一樹に伝えられたら、そう思うけどあと一歩が踏み出せない。

あと一歩が。

美代は大きなため息をついて、リラクマを握りしめた。

クマのぬいぐるみは苦しそうに顔をしかめるが、何も言わない。

「あと一歩がなぁ」

踏み込めない。

もしこの気持ちを一樹に伝えられたとしても、嫌われたら元も子もない。

一歩踏み込なければ、何も変わらない。

わかっていても、怖くて踏み込めない。

一樹に嫌われるのが、とても怖い。

ふと枕元で携帯が振動する。

美代は怠さを感じながらも携帯を取り、寝たまま電話に出た。

「七恵どうしたの? なんかあった?」

電話越しに息遣いが聞こえるだけで、返事はない。

疑問に思い上体を起こし、もう一度呼びかける。

「七恵?」

『・・・・・・あ、ごめん、ぼーとしてたわ、悪い悪い』

七恵の声を聞いて、美代は安心してまた上体を倒した。
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