きらいだったはずなのに!

 なんて安心してたんだけど、現実は厳しかった。


 人生って甘くない。


「もう、あの子ったらどこで油売って……。茉菜、遅い! 早くこっちに来なさいっ」


「げっ」


 なんと、タイミングよくリビングから出てきたお母さんに見つかってしまった。


 なんてことだ。


 本当に運がない。


 思わず引きつった表情を浮かべたあたしに、お母さんは目尻をつり上げた。


「早く帰ってきなさいって言ったでしょ! もうお客さん待ってるんだから!」


「いたたた、痛いからっ。逃げないから引っ張んないでー!」


 腕ちぎれちゃうよ。


 さすがにこんな状況になって、ここで逃げたらどうなるかなんてわかりきってる。


 引っ張らなくても、逃げたりしないってのに。


 というか、お説教されるんじゃなかったの?


 お客さんが来てるって、あたしに関係あるわけ?


 そんなことを考えながら、結局そのままズルズルとリビングまで引きずられた。

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