きらいだったはずなのに!
解放されたヒリヒリと痛む腕をさする。
お母さん、どんだけ強くつ掴んでたんだ。
危うく血が止まりかけた。
「すみませんね、お待たせしちゃって。これが娘の茉菜です」
お母さん、自分の娘を“これ”とか言っちゃう?
あーあ、それに腕に指の跡くっきりついちゃってるし。
「なにやってるのあんたは! ほら、挨拶して。オホホ、すみませんね」
うわ、お母さんが猫なで声出してる。
いつもはガハガハ大口開けて笑ってるのに、気持ち悪い笑い方しちゃって。
痛々しい跡がついている部分をわざと叩いたお母さんに「早くしろ」と目で促された。
普通に痛い。
「あ、こんにちは……?」
戸惑いつつも一応挨拶をし、そこで初めて顔を上げた。
「あ……!」
今日はなんという日だろう、本当に。
なんでこの人がここにいるの?
リビングのソファーに座って手にしていたコーヒーカップを置いたその人は、さっきあたしが道を教えてあげた、あのお兄さんだった。