きらいだったはずなのに!
「あれ、君はさっきの?」
お兄さんも、あたしに気付いたみたい。
というか、さっきあたしがお兄さんに教えてあげたのって、もろにあたしの家だ。
自分がここまでバカだったとは思わなかった。
本当にもう救えない。
お兄さんだってきょとん顔してるし。
「あら、顔見知り?」
不思議そうな顔をするお母さんに、「いえ、ここまで来るのに道に迷ってしまって。茉菜さんに教えていただいたんですよ」と、お兄さんは人のいい笑みを浮かべて説明した。
けど、やっぱり目が笑ってない。
「あんた、そのまま一緒に帰ってくればよかったのに。なにしてたのよ」
「ま、まあそれはいろいろっていうか。それに、お兄さんに家教えた時、それが自分の家だったって気付かなかったんだもん!」
だってさ、こんなかっこいい人が家を訪ねてくるなんて、そうそうあるわけないじゃん?
気付かないのもしょうがないと思うんだけど。
「あんたが自分の名字も覚えられないほどバカなのは、今日初めて知ったわ」
怒るを通り越して呆れたのか、お母さんはそれ以上なにも言わなかった。
見放された気分。
さすがにちょっと悲しくなった。