きらいだったはずなのに!
「兄ちゃん、家庭教師してるんだって? 茉菜の」
「『茉菜』? ……ああ、なるほどね」
悠斗が『茉菜』と口に出した瞬間に眉を潜めた桐島さんは、合点がいったというような表情で悠斗のことをじっと睨むように見つめている。
悠斗もなにかを感じ取ったのか、少しだけピリッとした空気が流れた。
「ふたりは知り合いだったの?」
確かめるように聞く桐島さんのその言葉にドキッとした。
いやな方のドキドキだ。
だって、なんて言えばいいのかわからない。
いや、普通に考えたら『元カレ』なんだけど。
いまさっき告白してきた悠斗の前で、いまさっき気付いた気持ちのままそれを桐島さんに言うことが、なんだか気まずい。
しかもあたし、知らなかったとはいえ桐島さんに実の弟の悪口を言っちゃってる。
察しのいい桐島さんのことだから、元カレなんて言おうものなら、あたしのトラウマの原因を作ったのが悠斗だって気付くかもしれない。
いや、もう気付いているのかも。
それよりもあたしは、もっとまずいことに気付いてしまった。
……悠斗のあとに桐島さんを好きになるって、なんか兄弟間で乗り換えしたみたいじゃない?って。