きらいだったはずなのに!

「なに、なんか欲しいもんでもあんの」


 その言葉に、驚いて思わず目を見開いてしまった。


 「ん?」なんて小首をかしげながらあたしの顔を覗き込むように見てくる桐島さんから、咄嗟に顔をそむける。


「ちょっと! 顔が近いですってば!」


「あー悪い悪い」


 悪びれなく言う桐島さんに、怒ったふりをするあたし。


 自分でも顔が熱いのがわかるくらいだから、桐島さんにばれたらお子ちゃまだなって、きっとバカにされる。


 赤くなっているであろうほっぺを両手で隠しながらちらりと横目で桐島さんを見ると、机に頬杖をつきながらまだこっちを見ていた。


 その顔はなぜか嫌味な笑顔じゃなくて、なんていうか優しい笑顔だった。


 まるで愛おしいものを見つめるとき、みたいな……。

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