きらいだったはずなのに!
玄関に降りて、帰り支度をする桐島さんの背中を眺める。
相変わらずしわのひとつも見当たらない綺麗なスーツに、ぴかぴかの革靴。
それだけでちゃんとしてる人っていうのがわかるよねと、前にお母さんが話してた。
あたしも、そう思う。
「それでは、お邪魔いたしました」
教科書通りの綺麗な四十五度のお辞儀をして、桐島さんは帰っていく。
ドアの閉まる音が、やけに響いて聞こえた。
「……茉菜、やっぱりちょっと元気ないわよね」
「え……?」
桐島さんを見送ってそのまま玄関に突っ立っていたあたしに、お母さんは困ったように笑いながら言った。
まるでその理由も知っているみたいに。