きらいだったはずなのに!

「茉菜が桐島さんのことを気に入ってるのはわかってるのよ。だって、母親だもの」


「うん……」


「勉強も、心配よね」


「うん……」


 昔からお母さんは、あたしの些細な変化にすぐに気付いてくれた。


 だからあたしもお母さんの言葉に素直に答えることができる。


「家庭教師ね、できるならお母さんもこのままずっと頑張ってほしかったんだけど。茉菜にこんなこと言いたくないんだけど、ちょっとやりくりが難しくなっちゃって。本当にごめんね」


 本当に申し訳なさそうな顔で、見ているこっちがつらくなった。


 うちは母子家庭だ。


 お父さんはあたしが小さいときに病気で亡くなって、部屋にあるギターはお父さんから譲り受けたものだ。


 音楽が好きなのも、部屋が防音仕様なのも、元はお父さんの部屋だったからだ。

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