きらいだったはずなのに!

 また話を聞かせてねと言ってから、お母さんはバタバタと準備をして真っ暗な中仕事に向かっていった。


 その背中を見送りながら思う。


 後悔しないって、どうやったらできるんだろう、って。


 いまのあたしがやるべきことは第一に勉強なことに変わりはないけれど、大事にしたいものってなんだろうなって考えた。


 あたしはやっぱり、二年ぶりのこの恋を大事にしたい。


 たとえこの恋が無謀でも、伝えずにいたらあたしはきっと後悔する。


 もちろん勉強をないがしろにはしない。


 恋も勉強も全力で頑張りたいって、そう思うんだ。


 頭の中には、いろんな表情の桐島さんが浮かぶ。


 たった数か月しか一緒にいないのに、不思議だ。


 そして頭の片隅にもうひとりだけぽつんとあるのは、悠斗のこと。


 スマホを取り出して、ひとつのアプリを立ち上げた。


 別れたあと、一度も自分からメッセージを送ることはなかった。


 悠斗のアイコンをタップして、あたしは別れてから初めて悠斗に自分からメッセージを送る。


 『話したいことがある』って——。

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