きらいだったはずなのに!

 お母さんのテンションが高すぎて近づきにくい。


 どうしたものか。


「あ、茉菜さん。こんばんは」


 柱の陰からタイミングを見計らっていると、心持ち疲れたような表情をしている桐島さんに気付かれた。


 お母さん、桐島さんを解放してあげなよ。


「桐島さん、こんばんは」


 出ていくタイミングを作ってくれた桐島さんに少し感謝。


 お母さんは不満そうな顔してるけど、これから勉強教えてもらうんだから、桐島さんを疲れさせないでほしい。


 あたしのバカ炸裂で、帰るとき絶対やつれてるはずだから。


「桐島さん、どうぞ上がってください。あたしの部屋、2階なんで」


 まったくうちの母親ときたら。


 お客さんを玄関に立たせたままで、なにやってるんだか。


「じゃあ、おじゃまします。お母様も、また勉強が終わりましたら挨拶しに参りますね」


「まあまあ! それじゃあ、またあとで。飲み物も持っていきますね」


「ちょっと、遊びに来てるんじゃないんだからそういうのいいってば。お茶はあたしが今持ってくから、お母さんは邪魔しないでよ?」


 本当にうちのお母さんは、油断も隙もあったもんじゃない。


「茉菜さん、それじゃあ行こうか? お母様、またあとで」


 桐島さんはマダムキラーなのか。


 さっきのお疲れ気味の顔が嘘かのような素敵な笑顔を浮かべた。


 お母さんはそれに射抜かれたみたい。


 ちゃっかりあたしの背中に手まで回っちゃってますけど。


 チャラいなあ。

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