きらいだったはずなのに!

「おーい、意識ありますかー」


「おっと、スミマセン」


 ……なんだか、ずっと前のこと思い出しちゃったな。


 というか、過去の思い出にトリップし過ぎた。


 時間無駄にすんな、なんて言われそう。


 桐島さん怖いから、反省、反省っと。


 だけど、身構えたあたしを気にすることなく、彼は何十枚もの赤点の紙を眺めているだけだった。


 ……なーんだ、よかった。


「まあ、とりあえず高校選んだ理由は分かったけど。その後のこともちゃんと考えないからこんなことになんだよ」


 嫌味っぽいことは言われたけど、なんだか意外。


 桐島さんのことだから、『そんなくだらない理由で選ぶとかバカ過ぎ』とか、けちょんけちょんに言われると思ってた。


 たぶん、わざわざ聞いたほど特別な理由なんかじゃなくて、興味もそがれたんだろうなあ。


 あたしに興味なさすぎでしょ。


 なにはともあれ、ボロクソに言われなくてなによりだ。


 ほっと一息ついている間にも、彼はぺらぺらと用紙をまくり続けている。


 細長く、しなやかな指先が規則的に動く様子を、ただ眺めた。


 口も性格も悪いのに、指だけはきれいだ。


 顔も確かにきれいだけど、どうも悠斗を連想させるからあまり好きじゃない。


 そんなこと言ったらブチ切れられるっていうか、静かに言葉で責められそうだから心の中に閉じ込めた。

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