きらいだったはずなのに!

 そんなあたしに近づいてきた目の前の男。


 きりっとした眉を下げて、なにを思ったかあたしの方に両手を伸ばしてきた。


 また、叩かれるの?


 それとも、そんなブス面で泣くなって言われる?


 だけど、あたしのそんな予想は外れて。


「……悪い。泣くほど痛かったか? 赤くなってる」


 その手はあたしの頬っぺたを包み込むようにして、優しく触れた。


 ひやりとしたその感触に体をびくつかせたとき、目にたまっていた雫がこぼれた。


 それはあたしの頬と桐島さんの手の隙間を、ゆっくり流れて行った。


 間近で見る彼の顔は、やっぱりきれいだった。


 瞳はどこまでも深く黒く続いて、その中に映る自分がなんだか不思議で。


 良心の呵責に苛まれているみたいな少し歪んだ表情も、今だけは演技なんかじゃないって思えた。


 でも、どうせそれも演技なんだろうなって、心の中で密かに思った。


 もういい、わかってるし。


 だけど、それを少し寂しく感じた。

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