きらいだったはずなのに!

「えーと、聞いてたかな? 杉浦さんのお宅を……」


 首を傾げ、困ったように笑うお兄さん。


 ああ、すみません。


 道を聞かれてたことなんてすっかり忘れてた。


 なんせあたしは、バカなものですから。


 それはそうと、困ってるんだから助けてあげないと。


 ここら辺で杉浦っていうと……。


「そこのコンビニを通り過ぎて、ふたつ目の角を左に行くとありますよ。真っ赤な屋根が目印です!」


 うん、大丈夫。


 間違ってないよね、合ってる合ってる。


 あたしいつもこの道から帰ってるし、これで間違えたら救いようがないし。


「そっか、教えてくれてありがとね。それじゃあ」


「あ、はい。どういたしましてー!」


 手を振ってくれたお兄さんにあたしも同じように振り返して、目前のコンビニへと駆け込んだ。


 いいことしたし、ご褒美にいつもより高いアイスを買おう。


 ルンルン気分で鼻歌を歌いながらアイスコーナーに向かうバカなあたしは、家に帰るまで大事なことを忘れているってことに気が付かなかった。

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