きらいだったはずなのに!
いつもなら、わからない問題は桐島さんに解き方のヒントをもらったりするし、白紙のまま何分も手を動かさないなんてことはない。
だからきっと桐島さんも、あたしが変なことに気が付いたんだろう。
切り替えもできない自分に呆れて、思わず苦笑いが浮かんでくる。
「なにもないですよー」
あたしの顔を覗き込むように見てくる桐島さんから顔を背けて、言った。
桐島さんには関係のないことだし、それしか言えない。
気合を入れ直してシャーペンを握ると、ノートと問題集を静かに閉じられてしまった。
「えっ、なんで?」
桐島さんに勉強道具を取り上げられてしまっておろおろとすれば、目の前から小さく息を吐き出す音が聞こえた。
「そんな状態で手動かそうとしたって無理でしょ。つーか、そんなんで勉強したって頭に定着しないし。おまえがなにあったか話すまで今日はもう勉強しないから」
冷たく突き放すような言い方に、あたしはうつむくしかない。
勉強しようと思っても、意識は勝手に違うところに行っちゃうから集中なんてまるでできるはずがない。
ひざの上で手をぎゅっと握り締める。
「ほら、顔上げろ……って、おまえっ!」
桐島さんの呆れたような声が聞こえたと思ったとき、両頬が何かに掴まれて上をぐいっと向けさせられて。
あたしの顔が上がりきったのと、桐島さんの焦ったような声が聞こえたのはほぼ同時だった。