理論と刀と恋の関係。
私は咄嗟に入り口の方へとにじり寄った。



が、もちろん忍者さんだって引かない。



私の動きを阻止しようと、クナイ…っていうのかな、忍道具的なアレで牽制してくる。



(やばいやばいやばい、あの人誰!?)



流石にこれはパニックだ。



とりあえず、何とかして気を逸そうと思い、話しかける。



「あなたは、誰なの?」



(きっと適当にはぐらかされるんだろうけど…とにかく、沖田さんが帰ってくるまでの時間稼ぎになれば__________)



「ん?俺は監察方やっとるもんや」



…案外あっさりと答えてくれた。



(というか、監察方…監察方?)



「あーもしかして、山崎さんですか?」



なるほど、忍装束を着ているのにも納得。



(でも、なんで私の前に現れた…?)



ちら、と山崎さんの様子を窺う。



安易に名前を呼んじゃったからか、彼はクナイを構えたまま。



(うわ、警戒してるわね…視線が痛い)



「お嬢はん、なんで俺の名を知っとるんや?

さっき書いとった書物も…怪しすぎるで。

あれは異国の文字や。せやろ?

どうしてお嬢はんがそれを知っとるかとか色々な、これは副長に報告せなあかん。

…そういう訳や、ついて来てもらうで?」



山崎さんはそう言うと、私のぐいっと腕を引っ張り上げた。



「っわ………痛ぅ」



突然の事に頭も身体も着いて行かず、私はされるがままに立ち上がらされる。



何とか振り払おうとするが、流石は山崎烝、私が逃げないようにときちんと体を押さえつけていた。



流れる様な動作で私の左側に立ち、左手で私の右手首を掴み自分の腰の辺りで拘束。



(腕が体の前でクロスしてて…動かせないっ)



そして彼はもう一方の手でクナイを持ち、私の首にあてがった。



あまりの早業に、もうついていけない。



(それに…痛い!)



上手い具合に力を込められた私の右手首が、ミシミシと嫌な音をたてているのだ。



(なんで…こんな動かないの!)



よくよく考えてみれば、私が掴まれているのはあくまで右手首だけ。



それなのに、何もされていないはずの左手でさえ、動かすことは難しい。



(なんかもう、怖いとか通り越して感心ね)



痛みを我慢しつつ、尊敬の眼差しを向けると、



「はぁ…お嬢はん、危機感ないんやなぁ」



山崎さんは呆れた表情を浮かべ、拘束を解いてくれた。



「とにかく、副長の部屋や。

お嬢はん、その本も持って行くで」



その本、と言って山崎さんが指差したのは、もちろん幕末年表のことだ。



(やっぱ、見逃してはもらえないよねぇ…)



私は渋々、文机の上のノートを取り上げた。
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