理論と刀と恋の関係。
沖田さんに手を引かれて、屯所の中を歩く。



彼の説明で今まで知らなかった場所が分かり、私の脳内では屯所の地図が出来上がっていく。



空いたパズルにピースを埋めていくみたいで、楽しい。



時刻は14時30分、雨はまだやまない。



お庭の案内もしてほしかったけれど、今日は無理そうだ。



土方さんの部屋の前を通り過ぎ(沖田さんが障子に落書きしようとしていたので止めた)、局長室が見えてきたとき。



スパンッと鋭い音をたてて、局長室の障子が開かれた。



(あんな開け方する人、沖田さんの他にもいるんだ…)



そのまま見ていると、中からガタイの良い男の人が1人。



少し年配の方のようだ。近藤さんではない。



横で沖田さんが“げ…しまった”と呟く。



会いたくない人なのだろうか。



気にならないでもなかったが、沖田さんに手を引かれるままそこから立ち去ろうとする。



…が、遅かった。



「…む、沖田か?」



声をかけられてしまったのだ。



これはもう会うしかないだろう。



沖田さんが肩を落とす。



相手が誰だか知らないけれど、そんなに会いたくない人なのか。



どんな人なんだろう、と少しわくわくしながら私はこちらに歩み寄る人物を見つめる…



…と急に手を引っ張られ、沖田さんの後ろに追いやられた。



これじゃああの人の顔が見えない。



沖田さんの影から少し顔を出そうとすると、“ダメ”と沖田さんが小声で言った。



ああ、沖田さんが会いたくないのではなくて、私に会わせたくなかったのか。



じゃあ大人しくしていよう、と私が再び沖田さんの後ろに隠れたとき、局長室から出てきたその人は、沖田さんの近くまで来て、こう言った。



「…そこのおなご、顔をよく見せい」



沖田さんの手に、力がこもった。
< 157 / 171 >

この作品をシェア

pagetop