理論と刀と恋の関係。
…半ば衝動的に出てきてしまったけれど。



怪しまれている身の私が夜1人で遠くに行くというのは、あまり喜ばしいことではない。



それは分かっているので、私は部屋を出てすぐの縁側に座った。



ふぅ…とため息をついて、空を見上げる。



150年後では見られないであろう、澄んだ夜空がそこにはあった。



(空が綺麗に見えるのは、上空の不純物が少ないから_____)



遥花の頭の中に幾つもの化学式が浮かぶ。



…しかし、この時代でそれを分かってくれる人は誰1人としていない。



(私は、独り…)



急に淋しさに襲われた。



今日1日、ずっと緊張して過ごしていた。



動揺を、恐怖を、悟られないように。



頬を上げて、悲鳴を隠して。



…けれど。



高校を卒業したばかりの彼女にとって、向けられた殺気や言葉の棘はあまりに鋭くて。



もう、ぼろぼろだったのだ。



彼女の頬に温かい雫が溢れる。



「…っふ、く…ぅ」



こらえきれなかった嗚咽が洩れた。



(元の時代に帰りたい。

でも___________)



「___帰れ、ない…」



途切れ途切れに言葉を紡ぐ。



彼女が根拠もなく否定の言葉を言うのは珍しかった。



どれだけ不利であっても、可能性が1%に満たなくとも。



それが0%でない限り、答えを、真実を探し求める彼女が。



今、“帰れない” と口にしたのだ。



見えるものの全てが理論と仮説によって成立していた彼女の世界。



そのどちらも成り立たない “タイムスリップ” という事実。



…受け入れられなかった。
< 53 / 171 >

この作品をシェア

pagetop