理論と刀と恋の関係。
「ま、って…」



部屋に入ろうとする沖田さんの袖口を掴む。



「もうすこし、このまま…」



…ここに居たい。



その言葉の末尾は声にしなかった。



なんとなく、言わなくても彼は分かってくれるような気がして。



私が感覚的に物事を判断するなんて、らしくないことは分かっているけれど。



自分でも理解できない確信が、心の中にあった。



「……」



沖田さんは無言で私の手を解く。



そして、その手をそっと握った。



冷えきった手に、沖田さんの体温が染み込んでくる。



(暖かい…)



すとん、と肩の力が抜け。



そのまま、沖田さんに手を引かれるままに、私はまた縁側に腰掛けた。



暫くして、沖田さんがぽつりと言う。



「辛かった、でしょう?

ずっと…」



ぼんやりと浮かぶ月を見ながら零す彼と、



「辛い、なんて…」



精一杯の強がりを言う私。



「嘘つき」



私の方に向き直り、沖田さんは少し苦しそうに眉根を寄せて言った。



「……っ」



そして、片方の手を私の目の上に被せる。



真っ暗になった視界、伝わる彼の鼓動。



そこに不思議と不安は無くて。



私はそのまま、導かれるように全身の力を抜いていった。



ああ、瞼が重い___________
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