理論と刀と恋の関係。
“理想のゲーム” を壊す。



それはつまり、意外性を突くということだ。


* * *


私は剣を下段で構えた。



目の前の彼の顔に動揺がちらつく。



…それもそのはず。



下段の構えから放つ技は、下からすくい上げる形のものが多い。



そのため、相手の力が自分よりも強い場合、身体ごと抑え込まれてしまうリスクが高いのだ。



つまり、私は自ら不利な構えをとっていることになる。



“普通”、ならね。








…さあ、〝再現〟しよう。








私は力強く床を蹴った。



構えはそのままで、相手の懐に潜り込む。



中村くんは私の動きを封じようと、上段の構えをとった。



(ふふ、そうこなくちゃ)



私はにやり、と笑みを零す。



だって。



土方さんの剣は──────────実戦を重ねることで出来上がったが故に、相手の隙を突くことに特化しているのだから!



要するに、相手が型にはまった動きをすればするほど、効果を発揮する…!!



(構えは下、相手との距離30cmのところで腰を深く落とし込み、手首を105°右回転、相手が真横に来たときにすくい上げるように見せかけ、脛を打つ─────── )



ガッ…と音を立て、私の木刀は中村くんの脛に当たった。



「ぐっ…」
「な!?」
「脛…だと!」



くぐもった呻き声と共に、周りからは驚きの声が上がる。



私は再び間合いを取り、乱れた呼吸を整えた。
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