私の仕事〜逝かせる〜
「トラさん。今まで一人でお家のことされてたの?大変でしょう?兄弟もいないんですか?」


「私はね、生まれてからずっと天涯孤独だよ。両親はねもう早くに亡くなってそれからはずーっと一人。そりゃ若い頃には恋愛もしたけど昔の話だわ。」


独居老人は今の高齢化社会では多い。

身内と縁を切ったのか家族の事情なのかは別にして一人暮らしは珍しいものではない。

トラさんは話しが好きなようで昔話をよくしてくれた。

「トラさん。爪伸びとるよ?私でよかったら切りましょうか?」


「山田さん、昔はね爪が伸びとるっていうと怠け者の証拠だったんだわ。恥ずかしいね。毎日寝てばっかで私は怠け者だわ。」

「安静にしてもらうのも患者さんの仕事の一つです。」

「そう言ってもらえるとありがたいねぇ。ほれ、お菓子持っていきなさい。」

「そんなダメですよ。トラさんのじゃない?気持ちだけ頂いときます。ありがとうね」

そんなやりとりができるぐらい年齢の割にはお元気なトラさん。

しかし、検査の結果は年齢を体力を反映していた。

=胃癌=

しかも末期。肺にも転移していて年齢から考えても手術は難しい。
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