つま先立ち不要性理論
真面目に話を聞く気があるのかどうかは置くとして、わたしに何かあると決まって敦史は飲みに誘ってくれる。この前は確か焼き鳥。準備にかなり時間をかけて臨んだ仕事のプレゼンがうまくいかず、落ち込んでいたときだった。
飲んで食べて飲んで食べて飲んで飲んでひたすら飲むだけ。
あの日だって気の利いた慰めの言葉なんてなかったと思う。慰めがない代わりにお説教もない。次頑張ればいいじゃん、なんて無責任なことも言われなかった。
「……あの人はたぶん、誰でもよかったんだと思うんだよね。わたしじゃなくても」
「……へえ、」
意地になって追加注文した肉をもりもり消化していき、お腹も膨れて食べるペースが落ちてきた頃。わたしがぽつりとこぼした台詞に、今日初めて敦史が相槌を打った。
「なんていうか、わたしを好きなわけじゃなくて。恋人を大切にしてる自分が好き、みたいな」
彼の優しい眼差しはいつだってわたしに向けられていたようで、本当はそうではなく。彼はわたしの向こう側に鏡を見出し、そこに映る自分の姿を見つめていた。あるいは、わたし自身を鏡に見立てて。
それがなんとなく、わたしにはわかった。