つま先立ち不要性理論
「人の目を気にしてる感じなんだよね。どうしたら自分が彼女を思いやるいい男に見えるか、そればっかり考えてるの」
外面ばかりで、中身が伴ってない。薄っぺらい。ひらりひらりと、うまく誤魔化してかわして言いくるめて。なかなかこちらに踏み込ませてくれない。
彼はとてもいい人だった。でも居心地が悪かった。
彼のことが好きだった。
でも、愛せなかった。
「……あれもこれも、って欲張りすぎなのはよくわかってるけど」
「うん」
「ちょっとしんどくなっちゃったっていうか……結局わたしも、自分のことがいちばん好きなんだよね」
自分が好きで好きで、そんな自分を利用されるのがつらい。耐えられない。
自分を大切にしてくれていた彼をそれでも最後まで受け入れてあげられなかった、器の小さい女。
「まあ、しょうがないんじゃねぇの。無理なもんは無理だったんだし」
愛そうとして愛せるもんでもねぇだろ。
敦史はそう言ってトングで器用に金網上の丸腸を裏返しながら、水割りのグラスに口をつけた。