つま先立ち不要性理論
「……え、」
冗談のつもりで言ったことをあっさり肯定され。たった今口に入れようとしていた丸腸が、箸からぽろりと、タレがほとんど残っていない皿に落っこちた。
「なにその反応」
「え、いや……てっきりわたしは射程圏外なのだとばかり」
「はあ? 誰がいつそんなこと言ったよ」
全然アリですけど。
肉を焼きながらそんなことを平然と言われてさらに戸惑う。なんだ。なんなんだこの展開。
「だ……ってわたしの前では普通に煙草吸うじゃん」
「誰の前でも普通に吸いますけど」
「いやいや、吸わないでしょ!狙ってる女の子の前では絶対!」
「あー、そりゃ煙草出したら嫌な顔する子も多いしケースバイケースだろ。狙ってる子に限らず。俺も気ィ遣ってんのよこう見えて」
こんな話をしていたらまた吸いたくなったのか、敦史は今日何本目とも知らない煙草を箱から取り出して火をつけた。
わたしは大学の頃少しだけ吸ってすぐやめたけれど、別に嫌いなわけじゃない。だってなんか、煙草を持つ男の人の手って色っぽく見える。