(仮)
「……おいしい…」
素直に男に従い口を開くと、スプーンと共に中に入り込む温かいスープ。
野菜の甘みやら何やらが一気に口中に広がり、とにかく美味しかった。
生まれて初めて、こんなおいしいものを口にした気がする。
「…初めて喋ったな、お前」
男は喋れたのか、とでも言いたげな顔で私を見た。
「あ…ご、ごめんなさい…」
そうだったかな…
言われてみればそうだったかも。
一言も喋ってない。
「気にすんな。それよりうめぇだろ?なんたって俺特製だからな。ほら、食え」
男はニカッと白い歯を見せて笑い、ズイッとスプーンを私の口に運ぶ。
そうしてそれを何度も何度も繰り返す。
男が作ったスープは本当においしくて…
あったかくて……
「…おい」
男がスプーンを動かす手を止めた。
パタッ。
どうしたんだろう。
そう思ったとき、布団の上に置いている自分の手に雫が落ちた。
……え?
自分の手の甲には一滴の水が零れている。
ふと自分の頬に何かついている気がして触れると…水だった。
………私、泣いてるの?