(仮)



「……っ…、う…っ」



自分が泣いていることに気づくと、なんだか止まらなくなってきた。

涙は流れっぱなしで、肩を使ってまでしゃくりあげる。


……どうして……

一体何が悲しくて私は泣いてるの…?

自分でも意味がわからない…

それに、こんな初めて会う男の人の前で泣くなんて……


男は黙って私を見ていたかと思うと、椅子から立ち上がりどこかへ消えた。

かと思うとすぐに戻ってきて、いまだにしゃくりあげる私の顔にタオルを当てた。



「ひ…っく…、う…?」


涙でぐしゃぐしゃの顔で男を見ると、男は真剣な表情で私を見つめていた。



「泣きたい時は泣けばいい。何があったかは聞かねぇが、タオルが水浸しになるぐらい泣け。そしたら絞ってやるからよ」



そんなことを言いながら私の頭を撫でる。


この温かさ……
やっぱりさっきのは夢じゃなかったんだ。


この人…だったんだ…。



私はその手の温もり、優しさを感じながら、何が悲しいのかわからず泣き続けた。


その間男はずっと側で私の頭を撫でてくれていた。





< 6 / 10 >

この作品をシェア

pagetop