(仮)
「………ん…」
……あ…私、また寝てた…?
いつの間に…。
泣き疲れて寝ちゃったのかな…
眠たい目をこすりながら開くと、もう電気は消えていて真っ暗だ。
……暗いと、すごく不安になる。
…まだ眠ろう。
瞼をぎゅっと閉じる。
あの男の人はどこにいるんだろう…
そう思った時だった。
「…ひぇ…っ!?」
何者かに私の身体を引き寄せられたのだ。
……ビックリした……
まさか、隣に寝てたなんて……
そう、私を引き寄せたのは他でもないあの男。
私を抱き締めたまま眠っている。
なんで抱き締めて寝てるの…
身体に巻きつく腕を剥がそうと試みるが、動かしても結局戻ってくる。
私は諦めかけて男の寝顔を眺めた。
…よく見るとすごく整った顔立ちだ。
鼻筋も通っていてまつ毛も長い。
綺麗な顔だなぁ。
「ん…」
「…!?」
…! な、なんだ…寝言…
突然声を出すからびっくりした…。
なんとなく顔を眺めるのをやめ、天井を見つめた。
なんで私……こんなところに…
頭にモヤのようなものがかかり邪魔をして、今までどこにいたか、何をしていたかさえ思い出せない…。
ふっと掠れたフィルムのような映像が浮かび上がりそうになっては消えていく。
覚えてるのは自分の名前だけ。
一体なんなの?
私は何者なの?
これから… どうすればいい…?
そんなことをポツポツと考えていると、心に不安のシミが広がる。
…また…
また、泣きそうだ……
視界が歪み始めたとき、また男が声を上げた。
「………だ…」
「…え?」
寝言…?
「…大丈夫…だ…」
…私に…言ってるの…?
寝言かとも思ったが、男はまた私を抱き締めた。
今度は強く。
「…っ」
私は身を強張らせたが、男は既に寝息を立てている。
…なんだったんだろう、今の…
抱き締められているせいで、男の体温を全身に感じる。
……温かい……
優しい、心音……。
無意識に涙が流れる。
知らず知らず私は男に擦り寄り、温もりに触れているうち深い眠りに落ちていた。