塩素と君。
うーん。
仕方ない。今日は髪の毛のセットをあきらめよう。

あきらめてばかりだ…。

かかとがつぶれかけているローファーを履き、
私は、「いってきまあす。」と言って玄関の扉を開けた。

吹雪は自転車にまたがって、出てきた私を見るなり

「おせーよ。」

と言った。嫌な奴。つか一緒に行くとか言ってないし。
なんで待ってるの、という言葉が喉まで出かかったが
待ってくれた奴に言うのも悪いので、飲み込んだ。

朝日がまぶしい。
風切に入って真っ先に喜んだのは、自転車通学が
出来る事だった。
しかも、風切学生証を見せるだけで、月5回のみ、
有料駐輪所が無料で使えるのだ。
これを聞いたとき、必死で勉強してよかったなぁと思った。

土手を勢いよく走る。
朝日に照らされ、きらきら光る川。
私たちの母校。

私が住む風切は、かなり綺麗だと思う。
JR線が、綺麗に南と北を分けていて、
昔から住む人は、北側、要するに山側のことを、
畑、南側、要するに海側のことを、港と呼んでいる。

畑と港では、中学も違う。
畑の方にある高校は、なんの嫌みなのか
偏差値がものすごく低いのだ。
きっと、馬鹿は苦労しろ、ということだろう。

でも私は、ぎりぎりで港の、ここ一番の高校に合格した。
胸を張って歩けるなあ。

「早くしろよ。まじ遅刻するってば。」

吹雪の焦った声が聞こえる。
このままずぅっと学校につかなきゃいいのに。
ずっと、この綺麗な風景をながめていたい。

…といっても、これから毎日見るんだけど。

「はいはーい。あ。高校見えるよ。」

私は少しはしゃいで指差した。
土手の奥の方。まだまだつかなさそうなところに
輝く高校。
すごく綺麗だった。

「ほんとだな。本当に1キロあるんだな。
 これからは遅れるなよ。中学の時は
 300メートルだけで予鈴で家でても大丈夫だったけど…。」

文句ばかりたれる吹雪の言葉をさえぎって
自転車を飛ばす。

「はやくはやくー。」

とガンガンに飛ばしても、遅刻決定なことを知らない私は
競争気分で走っていた。
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