フレッシュ

見てはいけない落とし物

それにしても里美はやっぱりすごいと思う。


クラスで目立つ存在の里美は、クラスを越えて学年…いや、学校内で上位を争うほど人気の言わずと知れた美人で

そんな彼女に憧れる女子たちも数知れず。


この高校に入学仕立ての頃、初っ端から里美はクラスのアイドルで、すでにもう先輩たちから目をつけられていたって感じだった。

もともと知り合いが少なくて少々人見知り傾向のあった私は、新しいクラスの人たちと社交辞令程度にしか会話をすることができなくて、その間にも他の人たちは新しい友達を見つけて一緒にお昼を過ごしていて…。


自分が悪いと思いつつも一人寂しくお弁当を食べていた。

そんな時、何の触れもなく私の前の座席に腰掛けて「ここ空いてる?」なんて声をかけてくれたのが里美だった。


それから毎日、里美は私の座席へ来るようになって千紗たちも里美について来て、私たち五人組で行動するようになった。

テニス部にも誘ってくれて、みんなで入部した。

嬉しかったなぁ、その時は。

今は四人よりも一足遅れている私だけど、

四人がいなかったら、この高校で私の居場所はなかったんじゃないかって思うと…。


「まぁ、さすがにそれはなかったよね…。」

誰もいない階段で独り呟くと、思った以上に声が響いて驚いた。


テニス部の部室に用があるため、昼は生徒があまり通らない四階へ足を運ぶとまず美術室が見える。

部室は美術室の隣にあるめ、美術部の人たちとは放課後に会うことが多い。


美術室の中を見ると、相変わらずの道具の数。

「あれ…」

開けっ放しのドア付近に、誰かの本らしき物が落ちてあった事に気づく。

瞬時に落とし物だと判断しそれを拾い上げると
、表紙に書かれてあった文字や写真を見て腰を抜かしてしまった。


「これは…」

自分が変態なのか否や。

見れば見るほど、それが清純な本ではないことがわかる。

お昼の時間に里美が話していた未知の世界が頭の中で右往左往する。

職員室に送ろうかな…。

先生たちは緩いけど、うちの学校ではそういう物の持ち込みは禁止だったはず。


見てはいけない一冊の落とし物を手に取り、未知の世界から逃げるように

私は階段を駆け下り、職員室へ向かった。






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