however close to you

なんだ。なんだ、この空気。

今まで爽さんとあたしの間に流れたことのない種類の空気が、漂っている。

太陽が朱(あか)い。潮の香りが鼻をかすめる。



「…爽さんは、いいですよねぇ。汐莉さんといつまでもラブラブで」

「付き合っててもいいことばっかじゃねーよ」


なに。なになになに。

なんだかいつもの爽さんではない。一年以上一緒にいるけれど、落ち込んだ顔を見たことはないに等しい。


横目で表情を探ると、伏した目に淋しく笑う口元があった。


「…どうしたんですか。汐莉さんと、何かあったんですか」


こんなあたしにも、彼氏がいたことくらいある。だから、恋人同士には、良いも悪いも付き物だってことくらい、分かる。


でも、爽さんと汐莉さんは違うんだと思ってた。

あたしの身近で、ふたりだけが例外だった。いつも仲良しで、喧嘩と言ったって些細な可愛いもので、ふたりの好きという気持ちが薄れないことに全財産を賭けられるくらいそれは当然だった。


「んー、あるっちゃあるような……ないっちゃ…ない、のかなあ」
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