レディ・リズの冒険あるいは忠実なる執事の受難
ダスティ・グレン
 パーカーが苦々しい表情をしているであろうことは十分承知していたけれど、エリザベスは隣に座っている青年をちらちらと眺めることをやめられなかった。
 ダスティの舞台は何度も見に行った。最近歌手として有名になりつつある彼が何枚か出したレコードも全部持っている。
 今までは舞台の上にいる彼を遠くから見るとか、雑誌に掲載されてる写真を眺めるとか、レコードのジャケットを眺めてにやにやするとか、そんな風に遠くから見つめることしかできなかったけれど……近くで見ても素直に素敵だと思う。

「今日はなぜ、ここに? ごらんのとおり、芸術家やら芸術家を志す者やら――あとは商売人で、あなたのようなレディがくるようなところじゃない」
 ダスティは長いまつげの少年めいた面影を残した青年だった。エリザベスよりいくぶん年長に見える。
「私も商売人よ。マクマリー商会を取り仕切っているの」
 その彼にエリザベスは笑って見せた。爵位は国預かりになっているとはいえ、男爵家当主でありながら商売をしていることを恥じるつもりなんてまったくない。

 ダスティは目を丸くした。
「驚いた。マクマリー商会のトップは女性だというのは聞いていたけど――あなたのようなレディだったとはね!」
 エリザベスは肩をすくめた。
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