レディ・リズの冒険あるいは忠実なる執事の受難
「たしかにレディって呼んでもらえる身分ではあるけれど、ラティーマ大陸で育ったようなものなの。正直、なじめないことも多くて――」

 エリザベスがこんな風に心情を吐露するのは珍しいことだった。レディ・メアリにもパーカーにも、ここまで素直に自分の気持ちを告げたことはない。
 レディ・メアリに告げたらそんな状況に姪を追いやってしまったことを、涙を流して嘆かれるのは目に見えているし、使用人であるパーカーに弱みは見せられない。

 今の会話を聞こえる位置にパーカーが立っていることを忘れ去っていたのは、憧れの人に会えて珍しく舞い上がってしまっただけではなかった。
 たぶん、自分と同じ匂いをダスティに感じたからだ。
「わかるよ。俺も似たようなものだから」
 彼はそっと息をつく。

「俺は貧民街の生まれでね。親を亡くしてうろついているところを、たまたま慈善活動に来ていたミニー・フライが拾ってくれた。演じること、歌うことを教えてくれて、教育を与えてくれて、舞台に立たせてくれた」

 暮らしはよくなったけれど、時々感じる周囲との差。
 本来あるべき場所はここではないのだ――とどれだけ親切にされても満たされることのない孤独感。
「……わかる気がするわ」
 エリザベスは遠くを見るような目つきになって、彼に同調した。
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