レディ・リズの冒険あるいは忠実なる執事の受難
 エルネシア王国での生活は、ラティーマ大陸と比べてはるかに快適だ。
 暖かいベッド、目を覚ますのと同時に運ばれてくる朝のお茶。自分で家事をする必要もない。
「窮屈に感じることもあるもの……あなたも、同じでしょ?」
「似たようなものだね。さて、飲み物のお代わりは、お嬢さん?」
「……リズ」
 愛称を口にして、エリザベスは笑った。

「リズって呼んでくれていいわ。友達には、皆にそう呼んでもらっているの。私達……友達になれるでしょう?」
「……リズ」
 愛称で呼ばれて、エリザベスは頬を染めた。
 実際のところは、こちらに戻ってから、「友人として」名前で呼んでくれと言った相手はリチャードとダスティの二人だけなのだが。
 あとは屋敷の使用人が「リズお嬢さん」と呼んでくれるだけで――望んでのこととはいえ、エリザベスの交友範囲は意外に狭い。

 立ち上がったダスティが飲み物を取りに行こうとした時、この家の使用人がやってきた。
「主が書斎におこしください、と申しております」
「仕事の時間ね。また会える?」
 せっかくの歓談の時間が終わってしまうのはつまらないのだが、今日は彼に会うためにここに来たわけではない。

 今まで自分でも甘ったるいと感じるような、でれでれとした笑みを浮かべていたエリザベスだけれど、「会える?」と問いかけた時には完全に表情を引き締めていた。
「ミニーに聞いてみて。俺のスケジュールは全部彼女がおさえてるから」
「そうするわ。では、またね」
 名残惜しいのは事実だが、これからは仕事の時間だ。今後は堂々とダスティに会うこともできるだろうし、楽しくなりそうだ。
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