レディ・リズの冒険あるいは忠実なる執事の受難
「私は彼らには興味がないのでね――さて、闇の組織の親玉としては、出せる情報はこの程度かな」
「ん、もう。意地悪ね」
 エリザベスはむくれた表情になった。キマイラ研究会なんて存在は知らなかったから、ヴェイリーのところに来たのは無駄ではなかったのだろうけれど。
 もうちょっと情報を出してくれてもいいのではないかとも思う。

 扉をノックする音がして、ミニー・フライが入ってくる。話が終わった瞬間入って来るとは、どこかで聞き耳を立てていたのではないかと疑ってしまいたくなるほどだ。
「お話は終わったかしら? お嬢さんはそろそろお帰りになった方がいいわ。もうすぐ夜があけてしまうもの」
「ああ――ハンナ。すまないが、お嬢さんを玄関まで送ってさしあげてくれ。そちらの執事君もね」

「お邪魔したわ。いろいろありがとう。少なくとも考える材料は手に入ったみたい」
「よかったら、また遊びに来てください。あなたのようなお嬢さんならいつでも歓迎だ」
「ありがとう。ぜひ、そうさせてもらうわ」
 エリザベスはヴェイリーの書斎を後にする。書斎に入ってから、ほとんど無言を貫いていたパーカーも、ヴェイリーに一礼してから、主に続いて書斎を出た。

 ミニーと並んで歩きながら、エリザベスは無邪気な顔で問いかけた。
「ハンナって本名?」
「そうですよ。女優がハンナじゃ収まりが悪いでしょう? つけてくれたのも主人なんですの」
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