レディ・リズの冒険あるいは忠実なる執事の受難

「まあ、そうなの。ああそうだ――近いうちに、あなたの舞台またお邪魔するわ。ヴェイリーさんがボックスを貸してくださるって」
「では、こちらが主人の秘書につながる電話番号――それから、こちらが私のマネージャーにつながる電話番号。どちらも朝九時から夕方……そうね十九時頃までは誰か事務所にいるはずですから」

 ミニーは、また特徴的な笑い声をあげた。
「また遊びにいらしてくださいね。たいてい舞台が終わった後はこうして屋敷を開放しているの」
 トムの運転する自家用車が、玄関の前に横づけにされる。ミニーに見送られて、二人は車に乗り込んだ。

「……ふぅ」
 パーカーは深々とため息をついて、硝子の瓶を取り出した。屋敷に行く前に飲んだのだが、胃の痛みがおさまらないのだ。
「何なのよ、その薬」
 あまり何度も取り出したからか、ついにはエリザベスもその瓶に目をとめる。

「……いえ、何でもございませんよ」
 ヴェイリーの屋敷は、パーカーにとって緊張を強いられる場所だった。エリザベスの武器も預けてしまっていた。帰る直前に手元には戻ってきたけれど。
「それにしても、テレンス・ヴェイリーって面白い小父様ね。また遊びに行こうっと」

 のんきな声をあげるエリザベスに、パーカーは、
「やめてくださいよ」
 と、悲痛な声で返すことしかできないのだった。
< 112 / 251 >

この作品をシェア

pagetop