レディ・リズの冒険あるいは忠実なる執事の受難
 結局、彼にできることと言えば、危険な場所に共に赴いてエリザベスの身の安全を守ることだけ。
 ――どこまで出てもよいのだろうか。
 その疑問は、パーカーの心の中でも、大きな場所を占めている。
 エリザベスに対して、何をしても許される身分であったなら――きっと、鍵のかかる部屋に閉じ込めて外には出さないだろう。さきほど考えたようにいっそ一服盛るのもあるかもしれない。

 けれど、彼は彼女に仕える身であって、そこまではできない――そこまでしたなら、きっとエリザベスは彼の首を切るだろう。そうなってはもう、彼女を守ることはできない。
 彼が彼女を守りたいと望むのであれば、側にいるしか手はないのだ――とこの頃では思うようになっている。自分の胃のことを考えれば、そこに諦めの気配が混ざるのもまた事実だった。

「……似合わないな、これは」
 苦笑して、パーカーは鏡に映った自分の姿を見つめる。
 エリザベスが用意してくれた黒の盛装。まさか自分がこんなものを身に着けて、彼女のお供をする日が来るとは思ってもいなかった。

 ――行き先が同じ劇場とはいえ、彼女はボックス席。彼は、下の一般席だ。オペラグラスで彼女を見張ることになるだろう。
 テーブルの上には拳銃と胃薬の瓶が並んでいる。パーカーは拳銃を取り上げると、慎重に調べた。
 射撃の腕には自信がないが、護身用の武器はないよりあった方がいい。上着の中に、それを隠す。

 もう一度鏡に目をやり、曲がっていたタイを慎重な手つきで直す。それからテーブルの上に残されていた胃薬の瓶をポケットに落とすと、彼は主の供をするために部屋を出た。
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