レディ・リズの冒険あるいは忠実なる執事の受難
「拳銃はお預かりいたします」
 そうだろうな、と思いながらパーカーは入り口で待ち構えていた男におとなしく武器を渡す。それから、ボックス席へと足を踏み入れた。
 エリザベスは完全にくつろいだ様子で、軽食をつまみながらジュースを飲んでいるが、果たして相手の方はどうなのだろう。
 それにしてもエリザベスと別々の行動を取らされるよりは、一緒にいることを許されるだけよかった。
 
 ――いざとなったら、この身を盾にしてでも。
 エリザベスだけは守る。
 けれど、いっそ悲痛なまでのパーカーの決心は、ここでは無駄なものに終わってしまった。
 テレンス・ヴェイリーはパーカーにも気前よく飲み物を勧め、エリザベスが観劇を楽しめるように心を配り――つまりは、エリザベスを完璧にもてなしたのだ。

 パーカー自身には舞台のことはよくわからないが、おそらく素晴らしいものだったのだろう。
 エリザベスが敵対視している、ミニー・フライはたいそう美しかったと思う。個人的な彼の好みからすれば、少々肉感的すぎるのもまた事実だったが。

 それはともかくとして、劇場から出て来たパーカーは、こっそりと胃に手をあてる。
 ――死ぬかと思った。
 彼がそう感じたのも、当然だった。
 さすがに暗黒街の大物――山羊などと呼ばれるだけのことはある。
 その彼とエリザベスが堂々と渡り合っていたのはよしとしても。
 彼がいくらにこやかに二人をもてなしてくれたとしても。
 どうにもこうにも彼が発するぴりぴりとした雰囲気は苦手だ――これ以上、彼らとエリザベスを関わらせたくない。

 持参の拳銃はこっそりと返してもらい、エリザベスにしたがって車へと乗り込む。本来ならば、このまま帰宅してもらいたかったのだが、エリザベスが彼の願い通りに動くことなどありえなかった。
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