レディ・リズの冒険あるいは忠実なる執事の受難
「ヴェイリーさんのお屋敷に行くわ」
主に気づかれないよう、パーカーはこっそりとため息をつく。
――こうなることを恐れていたのだ。
一度首を突っ込んだなら、彼女は自分の好奇心が満足するまで諦めないだろう。
とはいえ、パーカー自身は世間の噂とは違うヴェイリーの屋敷のもう一つの姿を知っていた。あくまでも噂の範囲内ではあるが。
自分が貧しい環境から成功したためか――その手段はともかくとして――ヴェイリーは、向学心がありながらも貧しい若者に手を差し伸べることを惜しまない。
特に芸術方面に関しては、多大なる貢献をしていると聞いている。
自宅に将来性のある芸術家の作品を飾り、目のきく客人と作者を何気なく引き合わせているのだとか。
彼の屋敷で開かれているパーティーとやらにも、きっと多数の若者が招待されているのだろう。
パーカーの予想通り、ヴェイリーの屋敷にはたくさんの人が集まっていた。その中には才能ある若者も多数いたのであろう――絵や彫刻が飾られ、詩が朗読され、ピアノに合わせて歌声が響く。
――ダスティ・グレンか。
少し離れたところに並んで座る主と若手俳優を眺めながら、パーカーは心の中で眉をひそめた。執事たるもの、表情を面に出すわけにはいかない。
けれど、とパーカーは思う。
――彼は、お嬢様にあまりいい影響を及ぼさないような気がする……。
その予感は、ほどなくして現実となることをこの時の彼が知るよしもなかった。