レディ・リズの冒険あるいは忠実なる執事の受難
 マギーを誉めながらもエリザベスは、髪に飾っている櫛を抜いた。髪を結うのに使っていたその他のピンも一本一本抜いて、床の上に落としていく。
 マギーはそれを拾い集め、彼女が立ち上がった時にはエリザベスは完全に髪をほどいていた。
「……疲れた。お風呂入るわ」
「今、お支度しますねぇ」
 ぱたぱたとマギーが部屋を出て行く。入れ替わるように、パーカーが部屋に入ってきた。

「叔母様、何かおっしゃってた?」
「いえ」
 パーカーの目が露骨に泳ぐ。わかりやすいなぁとエリザベスは小さく笑った。
「私から目を離すな、でしょう?」
「……それは私の口からは何とも」
 叔母が心配性なのは、今に始まったことではない。自分の行動が、誉められたものではない自覚もあるからエリザベスもそれ以上は追求しなかった。

「お嬢様、浴室の準備ができました」
「ありがとう、マギー。時間がかかりそうだから、片づけは明日にしてくれる? あなた達はもう休んでいいわ」
「おやすみなさいませ、お嬢様」
 二人を下がらせてから、エリザベスは浴室へと入った。

 泡立っている浴槽に滑り込んで体を伸ばすと、温かなお湯が眠気を誘う。
「若い人だけの集まりって言ってたものね。何か有用な話を聞くことができればいいのだけれど」
 誰も聞いていないのを承知で、一人つぶやく。
 商売をこれから伸ばしていくために必要な情報を仕入れるためには、いろいろな人と関わり合う必要がある。

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