レディ・リズの冒険あるいは忠実なる執事の受難
 ――それでも、彼をがっかりさせたくないと思うのもまた事実。
「ええ、本当。あなたのお勧めなら、きっとおいしいランチをいただけるのでしょうね。車を回してくれる?」
「もちろん」
「ちょっと待って。この間、友達を連れていってもいいって言ってたわよね?」
 電話をきりかけたリチャードをエリザベスは引きとめた。
「いいよ。君の友達なら」
「貴族ではない子でもいい? あなたのお友達は嫌がる?」
 彼には見えないのはわかっていて、エリザベスは首を傾げてたずねた。リチャードは笑い声を上げる。

「君の友達ならかまわないよ。僕たちの友達だって、貴族ばかりというわけじゃないし。大学生は君が思っているより、階級を気にするわけじゃないんだ。もう少し年上の人も来るけど……オルランド公爵とかね」
 気にしていた名前が、彼の口から出る。エリザベスは眉を上げた。この名前が出てきたのが、電話でよかった。絶対、今思い切り表情を変えていたと思う。

「……そう。まだ行くかどうかはわからないけれど、友達にも聞いてみるわ。じゃあね」
 リチャードに別れを告げ、受話器を置いてエリザベスはパーカーを見やった。
「紅茶の仕入れについて、だったわよね。あちらに手紙を書いてみるわ。新しい農場を開拓してもらえるといいのだけど――上質の茶葉という条件になると難しいかしら?」
「わたしがタイプしますか?」
「……自分で打つわ。その間にあなたにはお願いしたいことがあるの。お茶の招待が殺到していて、どれに行くか決めかねているのよ。行った方がいいものと行く必要がないものをよりわけてくれない?」
 パーカーの手によってエリザベスのデスクにタイプライターが移動させられた。勢いよく、エリザベスはタイプライターを叩き始める。
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