レディ・リズの冒険あるいは忠実なる執事の受難
エリザベスの頼み
「今でもスリの腕はにぶってない?」
 何気ない口調でエリザベスの口から放り出されたその言葉に、ロイはむせた。
「リ……お嬢さんっ、俺、もう、そんなことはしていないですよっ」
「……そんなことくらい知ってるわよ」
 エリザベスに文字通り行き倒れているところを拾われるまで、ロイはありとあらゆることをやって生きてきた。そのことを責めるつもりなんて、まったくない。
 エリザベス自身、大陸に渡ったばかり頃、あれやこれや今追求されたら困ることをやってきたのも事実であって、最悪の環境で生きていくことが何を意味しているのかを知っているのだから。

 肩をすくめたエリザベスは、足を組み直してからロイを見つめる。
「ちょっとその腕を貸してほしいなーって言ってるの」
「お嬢様!」
 パーカーが声を張り上げた。エリザベスは、じっとりとした視線を彼に向けた。そして扉を指さす。
「あなたはちょっと外してて」
「ですが!」
「出て行きなさい、と言っているの」
 傲然と顎を持ち上げて、エリザベスは再度命令した。

 しばらくの間、どちらも譲ろうとはせず、両者の間に挟まれたロイがおろおろとする。にらみ合いに負けたのはパーカーだった。一つ、嘆息した後彼はゆるゆると頭を下げ、無言で退室した。薬の瓶を入れてあるポケットに手をやりながら。

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