レディ・リズの冒険あるいは忠実なる執事の受難
 パーカーは、机においてあるアドレス帳を引き寄せる。右手にペンを持って、左手でアドレス帳をめくった。

 その間もマギーはタイプライターを叩いている。メイドを首になったら秘書としてもやっていけるだろう。

「シャーク氏とお約束が取れました。三日後の夕方です」

 パーカーはエリザベスに報告し、エリザベスの後ろの壁に貼られた大きなカレンダーに場所と時間を書き込んで、次の指示を待つ。

「お茶」
「お嬢様、お忘れかもしれませんが、レディ・メアリが午後にいらっしゃる予定ですよ」
「叔母様……どうせまたお嫁に行けっていうに決まっているのよ。どうにかならない?」
「なりません」

 露骨に顔をしかめたエリザベスに向かい、きっぱりと言ったパーカーだったが、左手は胃のあたりを押さえている。どうやらまだ胃が痛むらしい。

 以前、レディ・メアリの訪問時に脱走したことがあるから、エリザベスもパーカーが念を押す理由は重々承知している。

 レディ・メアリはエリザベスの亡くなった父親の妹だ。現在はヴァルミア家に嫁いで、両親を亡くしたエリザベスの後見人となっている。
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