レディ・リズの冒険あるいは忠実なる執事の受難

「パーカーさぁん」
 ようやくエリザベスから解放されたロイが、よろよろとしながらパーカーの方へと近づいてくる。
「お嬢さん、とんでもないことを頼んできたんですよ!」
「わかっている」
 扉のところに張りついて聞いていたなどとおくびにも出さず、パーカーはロイにうなずいた。
「俺――やるって言っちゃったんですけど」

「そうだろうね。君がお嬢様の頼みというか命令というか脅しというか――そういった類のことに逆らえないのはわかっているよ」
 パーカーは困った顔をして自分を見上げている少年の頭をぽんと叩いた。
「ロイ?」
「何でしょう?」
「自信がないならやるな。失敗は許さない――失敗すれば、お嬢様は破滅だ」
「……はい」
 難しい顔になって、ロイはパーカーを見上げる。
 自分はどうするべきなのだろう。困惑した様子の少年を見ながら、パーカーは考える。

 止めるべき――わかっている。それはわかっているし、彼の立場なら止めるべきなのだ。けれど、彼女が何を求めているのかはわからないが、彼女の願いを叶えてやりたいとも思ってしまうのだ。
 ――執事失格だな。
 自重する彼の顔を、不思議そうな顔をして少年が見上げている。
「ああもう、その件についてはお嬢様の言う通りに――繰り返す。失敗は、するな」
「わかりました!」
 パーカーの言葉を得たことで、彼は気が楽になったのかもしれない。勢いよく駆けていく後ろ姿を見送りながら、パーカーの手は無意識に胃薬を探し求めているのだった。
< 140 / 251 >

この作品をシェア

pagetop