レディ・リズの冒険あるいは忠実なる執事の受難
「――というわけで、商売でもやってみようかと思っている。僕でもできそうなものがあったら声をかけてほしいな」
 どっと部屋中から笑い声があがった。リチャードは手をふって、それを押さえ、そして手で合図をする。揃いの服に身を包んだ使用人達が、ジュースやアルコールのグラスを配り始めた。

 未成年のエリザベスは、オレンジジュースのグラスを二つとる。一つを隣で暇そうにしているロイに押しつけた。グラスが全員に回ったであろう頃合いを見計らい、リチャードが再び口を開く。
「今日はもう無礼講でいいと思う。うるさい大人もいないしね――。研究に興味があったら僕に直接聞いてくれればいい。では、乾杯!」

 乾杯! の声があちこちからあがった。エリザベスも「乾杯!」と叫ぶと、オレンジジュースのグラスを口に運んだ。グラスを半分空にして、エリザベスは周囲を見回す。リチャードの挨拶を聞いたなら、ひとまず義理は果たしたことになる。オルランド公爵を見つけて、さっさと用件をすませてしまおう。

「ああ、あそこにいるわ」
 周囲よりひときわ背が高く、長めの黒い髪を首の後ろで一つに束ねている高い男性がいる。紺のフロックコートに黒のズボンがよく似合っていた。
「失礼ですが……オルランド公爵……ですよね?」
 誰かに紹介されるのを待つでもなく、エリザベスは公爵に話しかけた。
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